僕が生きていく世界

人と少しだけ違うかもしれない考え方や視点、ぐるぐると考えるのが好きです。 あくまで、僕個人の考え方です。 みんながみんな、違う考えを持っていていい。 いろんなコメントも、お待ちしてますよ。

レビュー 大野更紗『困ってるひと』

本の帯にある、「難病女子による、エンタメ闘病記!」というのがすべてを表している。
主人公は難病女子で、闘病記なのにエンタメなのだ。信じられないかもしれないが、これ本当。

著者にして主人公の大野更紗は、1984年生まれ。僕のいっこ下だ。
彼女の印象を一言で言うなら、「猪突猛進型学者見習い女子」。
行動力と熱意があり、頭の回転がものすごく早いながらも、
論理に偏ることなく、感情や直感をないがしろにしない。
そんな彼女が、「ビルマの難民を研究しよう!」と前のめりで突っ込んで、
タイとビルマの国境に足繁く通っていたある日。

ビルマ女子は突然の病に倒れた――。
病名もなかなかつかないほどめずらしく、
何度も生死の境をさまよったり、激痛で指一本動かせなくなるほどの難病。
だけど、ここでバッドエンドになったりしないのが、
大野更紗のすごいところだ。

病には倒れたが、物書きとしては立ち上がった――!
ビルマの難民の難民を研究するために危険な国境地帯にまで行ってしまう、
「フィールドワーカー」としての本領を発揮して、
彼女は、「難病女子」という「難民」、すなわち自分を研究対象にして、
ほんとうにほんとうに面白いノンフィクションを、書き上げてしまったのだ。

この本を読んだ直後、僕は「読書メーター」の感想に、こう書いた。

この本の、この著者のすごいところは、
「変わった体験をしていること」ではないと思う。
こんなにすごい生活をしながら、それでも「この日々を文字にしよう」と思えること。
それも信じられないくらいに巧みな筆で。
「僕はこんなに大変だ。だからなんにも生み出せないよ、しょうがないだろ」と、
何かにむかって吠えている僕とは、えらい違いだ。
著者を心から、尊敬する。


本当に衝撃的だった。

この本がこんなにも面白い理由のひとつは、
とにかくなにを描写するにしても、著者の「目の付け所」が的確かつ独創的なことにあるだろう。
なにものにも興味と疑問をもち、納得できるまで考えぬく。
現状を「当たり前」などと思うことはなく、
ひとつひとつを、理解できるまでじっくり解きほぐしていく。
かといって決して冷たく分析するというわけじゃない。
ときに誰よりも熱く、誰よりも感情的なのに、
必ず一本、論理の筋が通っているのだから、共感せずにはいられない。

病気の話だけじゃない。
何を見て、何を考えて今を生きるか。
本当は、「当たり前」なことなんて何ひとつないのに、
もしかして自分は、思考停止しているのではないか。
そんなことを改めて考えるため、すべての人に読んでほしい、名著。

文庫化もされてるし、いっぱい買って配りたいくらい。