僕が生きていく世界

人と少しだけ違うかもしれない考え方や視点、ぐるぐると考えるのが好きです。 あくまで、僕個人の考え方です。 みんながみんな、違う考えを持っていていい。 いろんなコメントも、お待ちしてますよ。

「開花状況お伝えします」by 3 @tade_sukizuki(お題バトル0411参加作品)

【使用お題】

ウイルス、花、雨、叫ぶ、笑い、青空

 

「キャーーーーーーッ!!!」

早朝、バスルームから響いた特大の悲鳴で私は目を覚ました。

「なに...どうしたの」

「ねぇ見てよ!!これなんだと思う?!」

彼女は私の目の前に頭を突き出し、髪の毛をかき分けて見せる。そこには小指の先ほどの茶色いこぶのようなものがにゅっと生えていた。

「なんだろ...できものかな」

「もぉ~~やだぁ~~...これね、こっちにもあるの」

よくよく見てみると、まるで2本角の鬼のように、左右対称の位置にそのこぶはあった。

「痛いの?」

「痛くはない...けど気になるよぉ」

「病院行く?」

「ん~~でも少し待ってみる。もしかしたらポロッと取れるかもしれないし...てかこれ診せるなら外科?皮膚科?」

あれだけ大袈裟な悲鳴をあげたくせに、他人に見せて気が済んだのか彼女はもう今日の朝ごはんに気を取られていた。スキップしながらキッチンへ向かう彼女の姿が普段と変わらず元気そうだったので、私もその“こぶ”のことはすっかり忘れてしまったのだった。

 

 

2週間後、私は再び彼女の頭を見つめていた。

こぶが明らかに伸びている。

「いよいよ隠せなくなってきたよぉ...ねぇどうしよう」

帽子をかぶるにも不都合なくらいの長さ、そして先端が...

「枝分かれしてきている...?」

こぶはどんどん表面が硬くなり、茶褐色が濃くなっているように見える。それを彼女に伝えると、かえって怖がらせてしまったのか病院へ診せに行くのを嫌がるようになってしまった。

無理強いもいけないと、そのままにしておいた結果...

 

 

さらに2週間後。

「ねぇ...見て、これ」

彼女の頭には鹿の角のように伸びた立派な“こぶだったもの”。そしてその先端に...

「...桜?」

小さなピンク色の花が一輪、咲いていた。

 

 

「ウイルス性の花病ですね」

色白で細面の医者はさらりと告げた。

「花病?」

「身体のあちこちが植物化する病気です。生命活動に支障はありませんが、見た目がどんどん変化していくので奇異な目で見られることも多いです。今のところ根本的な治療法はありません」

病院からの帰り道、彼女は珍しく俯いて一言も言葉を発さなかった。

 

 

しかし、それから2日後。

「今朝のわたしの開花状況をお伝えしま~~す!今日開花したのは5輪!お花見にはまだ早いかな!もう少しお待ちを~~!」

「ちょっと、声大きい...もう大丈夫なの?」

聴くと、いともあっさりと彼女は言う。

「だってなっちゃったものはしょうがないじゃん?これがわたしの個性?だと思って。死ぬわけじゃないならなんだってオッケー!てか家の中で花見できるのテンション上がるでしょ??」

 

 

彼女の切り替えは早かった。体の植物化もどんどん進み、髪の先端はつるになり、肩にはガーベラ、指には小さなバラが咲いた。頭の枝はどうやらしだれ桜だったようで、それは見事な枝ぶりに満開の花を咲かせた。

彼女は毎日自分の体の開花状況を写真に撮ってSNSに投稿する。彼女の明るいキャラクターと花の美しさに魅せられた人々は次第に増え、今ではそれなりの有名人だ。

 

 

今日は野原に撮影に来た。高い青空の下、いつもどおりテンションの高い彼女はくるくると回っている。

「あ、見て見て天気雨!晴れてるのに雨~~!!わたしの体に水やりできるじゃん!」

SNSに投稿された画像の中、カメラのファインダーの中、私の目の前。

彼女の笑顔が今日も咲いている。