『カツミと少年野球チーム』
カツミは、ある街の少年野球チームに参加していた。一年生から六年生まで、町内の小学生を集めた小さなチームだ。
正直言って彼の参加するチームは弱い。たった十チームしか参加しない地区大会でも、一回戦に勝てるかどうかというところだった。
カツミにはそれが不満だった。カツミは、まだ小学校六年生ながら、本気でプロ野球選手を目指している。こんな田舎の地区大会などで苦戦している場合ではないのだ。
このチームが弱いのは、コーチの指導方針のせいだ。カツミはそう分析していた。
チームをまとめるクサカベコーチは、かつて高校時代には甲子園まで行った実力の持ち主で、サラリーマンを定年した今でも、野球のセンスはかなりのものだ。しかし、「うまくなくてもいい。楽しくのびのびと」などと掲げた指導方針がよくない。
野球をやっている人間ならうまくなりたいと思うのは当たり前。それなのに、「楽しくのびのびなど」と甘いことを言っているから、いつまでもこのチームは弱小で、周りから馬鹿にされるんだ。
カツミはいつも、そう言って不満をこぼしていた。
さっきの試合もそうだった。
相手チームが打ち上げた球を、センターの五年生が取り損ねたのだ。ちょっと太り気味で、運動神経がよくない彼は、いつもフライを取り損ねる。彼は慌てて転がった球を追いかけ、拾い上げるとファーストに向かって投げた。下手くそな球は辛うじてファーストのところまで届き、相手チームのバッターの足が遅かったこともあって、どうにかこうにかアウトにすることができた。
クサカベコーチはそれを見て、センターの彼に声をかけた。
「ナイスファイト!」
カツミは頭にきた。何がナイスファイトだ。今はたまたま運がよかったが、もう少しであいつのせいで相手チームに出塁されるところだったじゃないか。こういう時コーチは、失敗したあいつを責め、そのミスを指摘するべきなのだ。いや、あいつはもともとこのチームの足手まといなのだから、お前は野球に向いてない、チームのためにやめろとはっきり言うべきだ。それなのに、何がナイスファイトだ。
頭に血が上ったカツミは思わず声を上げた。
「ミスってんじゃねーよ! お前は足手まといなんだよ! さっさとやめろ、このデブ!」
カツミの怒鳴り声に、センターの少年は、一瞬きょとんとした顔になったが、すぐに彼の言葉の意味を理解したらしい。顔をしわくちゃにして泣きはじめた。
カツミと泣いている少年の周りに、周囲の大人たちが集まってきた。
「ふぅ」
午前中の試合を終えて、遅めの昼休みを取ったクサカベは、練習場所であるグラウンドから少し離れた公園のベンチに腰掛けてため息をついた。
「カツミ君、なんとかならないかねぇ」
疲れきった声で呟いた彼の隣に、アシスタントコーチのヤマダも腰を下ろす。
「ですねぇ。志が高いのはいいんですが、このチームはそういう趣旨ではないんですがね」
困ったように肩をすくめたヤマダに、クサカベが苦笑しながら頷いた。
ヤマダが、ふと思いついたように続ける。
「というか、どうして彼はここにいるんですかね? わざわざうちなんかに入らなくても、どこかのユースチームか、そうでなくてももっと強いチームに行けばいいのに」
「まったくだ。まあ、彼もそこまでうまいというわけではないからね。要するに、ああいうことを言って『志の高い、真剣な自分』に満足してるのさ」
「ああ、そうですね、きっと」
クサカベのため息交じりの言葉に、ヤマダも苦笑いを浮かべて同意する。
その時、グラウンドの方から怒鳴り声が聞こえてきた。カツミの声だ。また、チームの誰かを怒鳴りつけているらしい。
クサカベとヤマダは、無言で視線を合わせ、同時にため息をついた。
正直言って彼の参加するチームは弱い。たった十チームしか参加しない地区大会でも、一回戦に勝てるかどうかというところだった。
カツミにはそれが不満だった。カツミは、まだ小学校六年生ながら、本気でプロ野球選手を目指している。こんな田舎の地区大会などで苦戦している場合ではないのだ。
このチームが弱いのは、コーチの指導方針のせいだ。カツミはそう分析していた。
チームをまとめるクサカベコーチは、かつて高校時代には甲子園まで行った実力の持ち主で、サラリーマンを定年した今でも、野球のセンスはかなりのものだ。しかし、「うまくなくてもいい。楽しくのびのびと」などと掲げた指導方針がよくない。
野球をやっている人間ならうまくなりたいと思うのは当たり前。それなのに、「楽しくのびのびなど」と甘いことを言っているから、いつまでもこのチームは弱小で、周りから馬鹿にされるんだ。
カツミはいつも、そう言って不満をこぼしていた。
さっきの試合もそうだった。
相手チームが打ち上げた球を、センターの五年生が取り損ねたのだ。ちょっと太り気味で、運動神経がよくない彼は、いつもフライを取り損ねる。彼は慌てて転がった球を追いかけ、拾い上げるとファーストに向かって投げた。下手くそな球は辛うじてファーストのところまで届き、相手チームのバッターの足が遅かったこともあって、どうにかこうにかアウトにすることができた。
クサカベコーチはそれを見て、センターの彼に声をかけた。
「ナイスファイト!」
カツミは頭にきた。何がナイスファイトだ。今はたまたま運がよかったが、もう少しであいつのせいで相手チームに出塁されるところだったじゃないか。こういう時コーチは、失敗したあいつを責め、そのミスを指摘するべきなのだ。いや、あいつはもともとこのチームの足手まといなのだから、お前は野球に向いてない、チームのためにやめろとはっきり言うべきだ。それなのに、何がナイスファイトだ。
頭に血が上ったカツミは思わず声を上げた。
「ミスってんじゃねーよ! お前は足手まといなんだよ! さっさとやめろ、このデブ!」
カツミの怒鳴り声に、センターの少年は、一瞬きょとんとした顔になったが、すぐに彼の言葉の意味を理解したらしい。顔をしわくちゃにして泣きはじめた。
カツミと泣いている少年の周りに、周囲の大人たちが集まってきた。
「ふぅ」
午前中の試合を終えて、遅めの昼休みを取ったクサカベは、練習場所であるグラウンドから少し離れた公園のベンチに腰掛けてため息をついた。
「カツミ君、なんとかならないかねぇ」
疲れきった声で呟いた彼の隣に、アシスタントコーチのヤマダも腰を下ろす。
「ですねぇ。志が高いのはいいんですが、このチームはそういう趣旨ではないんですがね」
困ったように肩をすくめたヤマダに、クサカベが苦笑しながら頷いた。
ヤマダが、ふと思いついたように続ける。
「というか、どうして彼はここにいるんですかね? わざわざうちなんかに入らなくても、どこかのユースチームか、そうでなくてももっと強いチームに行けばいいのに」
「まったくだ。まあ、彼もそこまでうまいというわけではないからね。要するに、ああいうことを言って『志の高い、真剣な自分』に満足してるのさ」
「ああ、そうですね、きっと」
クサカベのため息交じりの言葉に、ヤマダも苦笑いを浮かべて同意する。
その時、グラウンドの方から怒鳴り声が聞こえてきた。カツミの声だ。また、チームの誰かを怒鳴りつけているらしい。
クサカベとヤマダは、無言で視線を合わせ、同時にため息をついた。