僕が生きていく世界

人と少しだけ違うかもしれない考え方や視点、ぐるぐると考えるのが好きです。 あくまで、僕個人の考え方です。 みんながみんな、違う考えを持っていていい。 いろんなコメントも、お待ちしてますよ。

『君と世界を救おう』

 まだ残暑厳しい8月の昼下がり。
 波打ち際に腰を下ろして水平線をみつめている渚の背中に、俺はそっと声をかける。
「こんなところで何してんの?」
「世界を救ってるんだ」
 振り向いた渚が、さも当然といった表情でそう答えたから、俺は一瞬、冗談を言っているのかと思った。
 それが顔に出てしまったんだろう、箱から出したばかりのコピー用紙みたいに真っ白な渚の眉間が、ほんのちょっとだけシワを作った。
 それを見た俺は、ちゃちな考え方しか出来ない自分の凡庸さを呪いたくなった。
 渚は、いつも他の人とは違う次元に存在してる。理科の時間に習った、「ねじれの位置」だ。
 他の人たちと渚は、どこまでいっても決して交わることは出来ない。三次元のこの世界で、向いている方向が、見ている光景が、永久に交わらない。
 渚はその現実を、静かに受け入れる。足掻いたって、生まれた時から定められたゴールに向けてまっすぐに走る人生は、誰にも止められないんだ、って。
 これでいいんだよ、と渚は言った。これが自然なんだ。交わることがなければ、傷つけることもないんだもの。
「一緒に」
 もうすでにこちらを振り返るのを止めて、さっきまで眺めていた方に視線を戻してしまった渚の背に向けて、俺は呟いた。渚の華奢な首が傾げられ、頭が僅かに傾いてすきとおった髪を揺らす。
「世界を救ってもいいかな」
 そう言いながら、渚の隣に腰を下ろす。風が、俺たちの間を通り抜ける。
 渚はいいよ、とは言わない。許可を与える権利を、私は持たないんだ。そういう目を俺に向けてくるだけ。
 俺だけは。
 ねじれの位置にある渚と、僅かでも交われるように。
 俺の方向を、ねじまげてやるんだ。
 それが不自然であっても。
 傷つけるものであっても。 
「君には無理だよ」
 渚は言った。それは拒絶ではなくて、確認。
「かまわない」
 俺は答えて、渚と一緒に世界を救いはじめた。