音楽小説「鏡」
aiko「鏡」より
午前中の太陽が射し込む部屋の中で、オマエはオレに背中を向けたまま、黙って荷物を整理してる。
オレはマンガを読むふりをしながらオマエの背中と、たまにのぞく横顔を見つめてる。今日この部屋を出て行っちまうオマエの顔を、少しでもこの目に焼きつけときたいんだ。我ながら、女々しくていやんなるが、こればっかりはしかたない。これっきりで、オレはオマエに会えなくなっちまうんだから。せめてオマエが、ドアを開けて出ていくまでだけでも。
勘違いしないでほしいんだ。オレはオマエのことを責めたりする気はこれっぽっちもない。確かにオマエの判断は正しい。オレだってそう思うよ。
ホント、オレはろくでもないやつだった。粋がってばっかで、マトモに働くのがイヤで、うまくいかなくて、酒を飲んではオマエに当たり散らして。そのくせ、いつもオマエに頼ってばかりなんだ。オマエがいなきゃオレはなんもできやしない。
でもさ、こんなんでも少しは、オマエと一緒に暮らすようになって、オレ、変わったんだぜ。
オマエにいいとこ見せたくて、イカす格好もしてみたくて、めんどくさくても、風邪引いても、サボらないで働くようになったんだぜ。ついこの前も、会社の先輩に「なかなかマジメになったじゃねえか」なんて言われたりしてさ。
……今さらこんなこと言ったってしょうがねぇな。オマエはきっと、今までずっと、サイテーなオレを支えながら我慢してくれてたんだよな。でももう限界なんだ。そうだろ?
オレときたら、毎日オマエの顔見ては元気になってたってのに、オマエにめっちゃほれてたってのに、そんなことは少しも言わないでいつだって怒鳴りつけてばっかりだった。なんて言ったらいいか、オレにはさっぱりわかんなかったんだ。ホントの気持ちを伝えるのが照れくさくて、なんかカッコ悪いとか思っちまって……。
でもやっとわかったんだ。思ってることを言いもしないで、かっこばっかつけて粋がってる方がずっとだせぇんだよな。
今さらわかったって、全然、遅すぎるけど、それでも今なら言えるんだ。
オレは、オマエを愛してるぜ。オマエのためなら、全部捨てたって平気さ。……まったく、どうかしてるな、オレ。
でもオレは決めたんだ。そう、オマエのために。オレは、オマエを止めない、って。ちゃんと、オマエが出て行くのを、その背中を見送ろうって。
オマエは今も黙ったままだ。何も言わずにバッグを担ぎ上げたオマエの横顔は、本当にきれいで、オレはオマエを愛しているんだって、改めて思うよ。
でも、もうキリがないな。オマエは立ち上がり、ちらりと、一瞬だけオレの目を見る。それから、すっと目をそらして、ドアに向かう。オレに見えるのは、ノブに手をかけたオマエの背中。
黙ったままオマエが外へ踏み出して、ドアが閉められる寸前、オレは最後に一言だけ、声をかけた。聞こえたかどうかは、わからないけど。
「元気でな」
最後に見えたオマエの頭が、ほんのわずかに動き、うなずいたように見えた。
オレにはそれで、十分だったんだ。
午前中の太陽が射し込む部屋の中で、オマエはオレに背中を向けたまま、黙って荷物を整理してる。
オレはマンガを読むふりをしながらオマエの背中と、たまにのぞく横顔を見つめてる。今日この部屋を出て行っちまうオマエの顔を、少しでもこの目に焼きつけときたいんだ。我ながら、女々しくていやんなるが、こればっかりはしかたない。これっきりで、オレはオマエに会えなくなっちまうんだから。せめてオマエが、ドアを開けて出ていくまでだけでも。
勘違いしないでほしいんだ。オレはオマエのことを責めたりする気はこれっぽっちもない。確かにオマエの判断は正しい。オレだってそう思うよ。
ホント、オレはろくでもないやつだった。粋がってばっかで、マトモに働くのがイヤで、うまくいかなくて、酒を飲んではオマエに当たり散らして。そのくせ、いつもオマエに頼ってばかりなんだ。オマエがいなきゃオレはなんもできやしない。
でもさ、こんなんでも少しは、オマエと一緒に暮らすようになって、オレ、変わったんだぜ。
オマエにいいとこ見せたくて、イカす格好もしてみたくて、めんどくさくても、風邪引いても、サボらないで働くようになったんだぜ。ついこの前も、会社の先輩に「なかなかマジメになったじゃねえか」なんて言われたりしてさ。
……今さらこんなこと言ったってしょうがねぇな。オマエはきっと、今までずっと、サイテーなオレを支えながら我慢してくれてたんだよな。でももう限界なんだ。そうだろ?
オレときたら、毎日オマエの顔見ては元気になってたってのに、オマエにめっちゃほれてたってのに、そんなことは少しも言わないでいつだって怒鳴りつけてばっかりだった。なんて言ったらいいか、オレにはさっぱりわかんなかったんだ。ホントの気持ちを伝えるのが照れくさくて、なんかカッコ悪いとか思っちまって……。
でもやっとわかったんだ。思ってることを言いもしないで、かっこばっかつけて粋がってる方がずっとだせぇんだよな。
今さらわかったって、全然、遅すぎるけど、それでも今なら言えるんだ。
オレは、オマエを愛してるぜ。オマエのためなら、全部捨てたって平気さ。……まったく、どうかしてるな、オレ。
でもオレは決めたんだ。そう、オマエのために。オレは、オマエを止めない、って。ちゃんと、オマエが出て行くのを、その背中を見送ろうって。
オマエは今も黙ったままだ。何も言わずにバッグを担ぎ上げたオマエの横顔は、本当にきれいで、オレはオマエを愛しているんだって、改めて思うよ。
でも、もうキリがないな。オマエは立ち上がり、ちらりと、一瞬だけオレの目を見る。それから、すっと目をそらして、ドアに向かう。オレに見えるのは、ノブに手をかけたオマエの背中。
黙ったままオマエが外へ踏み出して、ドアが閉められる寸前、オレは最後に一言だけ、声をかけた。聞こえたかどうかは、わからないけど。
「元気でな」
最後に見えたオマエの頭が、ほんのわずかに動き、うなずいたように見えた。
オレにはそれで、十分だったんだ。