僕が生きていく世界

人と少しだけ違うかもしれない考え方や視点、ぐるぐると考えるのが好きです。 あくまで、僕個人の考え方です。 みんながみんな、違う考えを持っていていい。 いろんなコメントも、お待ちしてますよ。

真・竹取物語

 今は遥か忘れ去られた太古の昔、我々人類が持つ歴史よりも遙か彼方の時代。
 アトランティスと呼ばれる大陸があった。
 そこには超古代人による帝国があり、今では想像すらできぬほどの、高度な文明が発達していたという。
 彼らはあろうことか、老化を完全に止める「不死の薬」さえも創り出し、全ての民がそれを常用していたのだ。当然、その栄華は永遠に続くものであると考えられた。
 しかし、ある時、帝国の平和は崩壊した。
 扱いきれぬほどの超強力な兵器が暴走したのだとも、限界を超えた地球への干渉が、生態系のバランスを致命的なまでに破壊してしまったのだとも言う。
 正確な原因など、今となっては誰にも分からない。
 だがとにかく、大陸はあっという間に巨大な海原に飲み込まれ、高度な文明の陰は、跡形も残らなかった。
 一説に寄れば、その時の大災厄(カタストロフ)の巻き添えを受けて、恐竜は絶滅したのだとか。

 おそろしい災厄は、アトランティスの存在を跡形もなく消し去ってしまった。
 だが、これに対して超古代人たちは、まったくの無策だったわけではない。
 前もって崩壊を予知することに成功した彼らは、滅びにむかう地球を捨て、宇宙へと飛び立つことにした。そして全科学力を結集し、超巨大な脱出ポッドを作り上げた。
 今は失われた、浮遊金属、オリハルコンによって作られたと言われるその超巨大脱出ポッドは、帝国中の人間たちを満載して宇宙へと飛び出した。
 そうして遙かな時のあと、地球の環境が回復し、安全と平和が確保する時が来るまで、地球のすぐ近くに浮かび、静かに待ち続けることにしたのだった。
 そう、その超古代人の手になる脱出ポッドこそ、現代我々が「月」と呼んでいる天体なのだ――。

 自らの科学力が高まりすぎたことで、結果的に崩壊を招いてしまったアトランティスの人々は、その経験を戒めとして自分たちに枷を課すことを選択した。
 人々に自分たちの感情を抑制することを義務づけたのである。彼らは、人間の感情というものが、時に大きな破壊をもたらすことを知っていたのだ。
 彼らがいつでも必ず身につけている衣服――羽衣と呼ばれるそれは、月の小さな重力に順応し、自在に宙を舞う術を着用者にもたらすほかに、着用者の神経伝達物質に作用し、あらゆる激しい感情を抑制する効果があった。これを身につけたものは、強い怒りも、悲しみも、寂しさも感じることがない。
 不死の薬によって永遠の生を得つつ、羽衣によって感情を抑制し、彼らは長い長い年月を静かに待ち続けたのである。

「……いったい、どうなるのかしら」
 石壁に囲まれた小さな部屋の中で、長い黒髪を持つアトランティス人――今では、「天人」と呼ばれることの方が多い――の女性が、夜空に浮かぶ地球(マザー・アース)を見上げながらため息をついた。
 彼女の名はカグヤ。かつてのアトランティス帝国の有力貴族であり、脱出ポッド計画『ルナ』を推進した指導者の一人でもあった。
 かつては最高の権威と栄誉を誇った彼女であったが、現在はその力のほとんどを失っていた。その理由は、彼女が月での政策をめぐって――ことに、羽衣の導入に関して――最高指導者である人物との対立を深めていることにある。積極的に羽衣を導入し、社会の安定化を図ろうとする最高指導者に対し、彼女はその導入には反対だった。
 感情は確かに危険を伴うものでもあるかもしれないが、それがあるからこそ、人間は人間たり得るのではないか――彼女はそう考えていたのである。
 だが、社会の平穏を何よりも優先する月面国家にとって、彼女の思想はいわば「危険思想」に他ならなかった。
 そのため彼女は治安部隊にとらえられ、追って沙汰があるまでこの狭い部屋に監禁されているのだった。
「判決が出た」
 壁の向こう側から、無機質な声が聞こえてきて、カグヤは視線を壁に向けた。
「被告人に、地球(マザー・アース)への流罪を、言い渡す」

(つづく、かも?)