僕が生きていく世界

人と少しだけ違うかもしれない考え方や視点、ぐるぐると考えるのが好きです。 あくまで、僕個人の考え方です。 みんながみんな、違う考えを持っていていい。 いろんなコメントも、お待ちしてますよ。

お題スケッチ『花火が照らす横顔』

使用お題:花火

 普段は人影もまばらな公園に、今日は数え切れないほどの人が集まっていた。
 誘われて来た、大学の近くの地元の花火大会。もっと小ぢんまりしたのを想像してたけど、思ったより本格的だ。地元の企業が協賛して一千発も花火を打ち上げるらしい。
「結構すごいんだな、知らなかった」
「だから言ったじゃん。あたしは赤ちゃんのときから毎年見に来てるんだから」
 俺の独り言に、隣の美咲が笑う。美咲は俺の大学の友人で、サークル仲間(ちなみに、映画研究会だ)。大学近くのこの町に、幼いころから住んでいるんだそうだ。
「あ、うん。こんなことなら去年やおととしも来てればよかったな」
「何言ってんの。去年もおととしも誘ったのに、めんどくさいから、って断ったんじゃない」
 美咲が口を尖らせて言う。
「え、そうだっけ?」
「そうだよ、まったく。人のお誘いを断っておいて覚えてもいないなんて、失礼しちゃうな、もう」
「ご、ごめん」
 すねたように言う美咲に驚きながら、俺は謝る。本当に覚えてないけど、きっと去年もおととしも、俺は特に深い意味もなく断ったんだろう。基本的に出不精だし、夏は暑さにやられて何にもする気が起こらない。われながらぐうたらなやつだ。
「それが、どうして今年は来る気になったの? ははん、さては『あたしは浴衣で行くよー』ってのが効いたなっ?」
「べ、別に、ちげーよ」
 冗談めかして言う美咲にあわてて言い返すが、実は図星だ。
 俺はその美咲の方をまともに見ることができない。いつもは男勝りのTシャツにジーパン姿で、スカートさえめったに履いたことがない美咲が、今は水色のかわいらしい浴衣なんて着ちゃっている。それが妙に似合って女の子っぽいもんだから、いやでも気になってしまう。
「去年もおととしも、斉藤は浴衣で行ったの?」
 俺は美咲に尋ねる。ちなみに普段、俺は美咲のことを苗字で呼んでいる。美咲も俺のことは「佐々木」と呼ぶ。
「まさか。さすがに浴衣着て一人で花火見に行くってのはむなしいものがあるよ」
 美咲は肩をすくめて言う。ってことは、今年は俺が一緒に行くことになったから浴衣を着たわけか。なんだかちょっとだけうれしい。
「あ、もうすぐ始まるよ」
 はしゃいだ美咲の声とほぼ同時に、最初の花火が打ち上げられた。
 どーん、どーん!
 威勢のいい音が響き渡る。
 どっかの大きな花火大会をテレビで見てるときにはぜんぜんわからないけど、間近で聞くと花火の音ってのは本当に大砲の音みたいだ。まぁ、実際、でっかい玉を空に向かって打ち上げるんだから、大砲と似たようなもんだけど。
 音が鳴って一瞬後、ぱっと夜空に花が咲いて、薄暗くなってきたあたりを明るく照らす。
「わぁ! めっちゃきれい! やっぱ何度見てもきれいだなぁ」
 隣で美咲が歓声を上げる。その間にも、花火は景気よく立て続けに打ちあがってはひっきりなしに下界を照らしている。
 俺は、花火を見ているフリをして、そっと横目で美咲をうかがう。美咲は気づかずに夢中で夜空を見上げているから、俺はその横顔を見つめることができる。
 花火に照らされて夜の中に咲いた、君の横顔を。