『大縄跳び』
明日は運動会だ。
コウタは今日何度目になるかわからない盛大なため息をついて、憎らしくなるくらい真っ青な空を見上げた。
雲ひとつない秋晴れの空。天気予報によれば、今日から一週間、毎日が快晴らしい。もちろん、明日も。コウタは一ヶ月前から毎日天気予報をチェックしていたけれど、十月十日、つまり明日の予報は必ずゼロ。雨が降る気配なんて微塵もない。
コウタは、運動が苦手だった。かけっこも鉄棒も、サッカーも野球も、体を動かすものは全部苦手だ。
明日のかけっこも、間違いなくビリだろう。でも、それはまだよかった。かけっこでビリになるくらいなら、ものすごく惨めな気分にはなるけど、それだけで済んだ。
コウタの気分を、梅雨の日の曇り空のように真っ暗にさせていたのは、コウタたち三年生の学年種目、クラス対抗の大縄跳びだった。
大縄跳びは、コウタがもっとも苦手なもののひとつだった。目の前でびゅんびゅんと恐ろしい音を立ててまわる太い縄の中に入っていくなんて、信じられない。
ガタガタ震える足を歯を食いしばって押さえつけながら、何とか縄の中に飛び込んでみるけれど、固く目を閉じながら全身を縮めさせていてはうまく縄を飛び越せるわけもない。太い縄はびしっと音を立てて、体操着の半ズボンをはいたコウタのむき出しの太ももにぶつかって、痛々しい赤い痕をつける。
そんなコウタの姿を見て、クラスの友達は、またか、という顔をして眉をひそめ、ため息をつく。中には露骨に口に出す者もいる。
「あ~あ。またコウタのせいで終わっちゃったよ」
呆れ顔で肩をすくめたのはヒロシだ。背が高くてがっしりとした体つきのヒロシは、少年サッカークラブに入っていて、運動神経バツグンだ。不真面目でいつも授業中寝ているし、大縄跳びの朝練もめんどくさい、と言って一回も来なかったけど、一度だって大縄跳びに引っかかったりはしなかった。
「やめなよ、ヒロシ。コウタ君だって一生懸命やってるんだから」
そう言った優等生のヨウコも、困ったような顔でコウタを見ている。学級委員のヨウコは、大縄跳びの朝練や、放課後の練習を企画した当人でもあって、なんとか三年四組が運動会で優勝できるように頭を悩ませている。そんなヨウコにとって、コウタが最大の不安要素になっている、ということはコウタにもわかっていた。誰にでも優しくて、弱いものをかばってくれるヨウコだから、もちろんそんなことは口に出しては言わないけれど。
そういうヨウコの気持ちがわかっているから、彼女にかばわれるたびにコウタはいたたまれない気持ちになる。自分がひどく悪いことをしているような、そんな気がしてしまう。
「……ごめんなさい」
みんなの冷たい視線に耐えかねたように、うつむいたままのコウタが消え入りそうな声で呟く。唇を噛んで、体操着の裾をつかんだ手のひらをぎゅっと握りしめる。
必死で泣くのをこらえているコウタを見て、クラスメイトたちがざわついた。「また泣くよ」「何でこんなんで泣くんだよ、情けねーな」「でも泣かしたらやばいよ」そんな声が、ところどころから聞こえてくる。
「今日の練習はこれで終わりにしよう」
あわてたようにヨウコが言った。
「明日本番だから、みんな頑張ろうね。コウタ君も」
その場を取り繕うようにヨウコが言うと、みんなが口々に「そうだね」「じゃ、明日」などと言いながら大縄を片付けて次々に教室に戻っていく。
「まぁ、うちのクラスは優勝は無理だろうな」
ヒロシがそう言って、コウタの方をちらりと見る。コウタは必死でうつむいて、気がつかなかったふりをした。ヒロシはあきれたようにふんっと鼻を鳴らすと、教室に向かって歩いていった。
「コウタ君、気にしなくていいよ。でも、明日頑張ってね」
最後に残ったヨウコが、うつむいたままのコウタに声をかけて、先に教室に戻ったクラスメイトたちを追いかけて小走りで去っていくと、グラウンドに残ったのはコウタだけになった。
あたりに誰もいなくなるとコウタは、憎らしいほど真っ青な空を睨みつけて、声を殺して泣いた。
コウタは今日何度目になるかわからない盛大なため息をついて、憎らしくなるくらい真っ青な空を見上げた。
雲ひとつない秋晴れの空。天気予報によれば、今日から一週間、毎日が快晴らしい。もちろん、明日も。コウタは一ヶ月前から毎日天気予報をチェックしていたけれど、十月十日、つまり明日の予報は必ずゼロ。雨が降る気配なんて微塵もない。
コウタは、運動が苦手だった。かけっこも鉄棒も、サッカーも野球も、体を動かすものは全部苦手だ。
明日のかけっこも、間違いなくビリだろう。でも、それはまだよかった。かけっこでビリになるくらいなら、ものすごく惨めな気分にはなるけど、それだけで済んだ。
コウタの気分を、梅雨の日の曇り空のように真っ暗にさせていたのは、コウタたち三年生の学年種目、クラス対抗の大縄跳びだった。
大縄跳びは、コウタがもっとも苦手なもののひとつだった。目の前でびゅんびゅんと恐ろしい音を立ててまわる太い縄の中に入っていくなんて、信じられない。
ガタガタ震える足を歯を食いしばって押さえつけながら、何とか縄の中に飛び込んでみるけれど、固く目を閉じながら全身を縮めさせていてはうまく縄を飛び越せるわけもない。太い縄はびしっと音を立てて、体操着の半ズボンをはいたコウタのむき出しの太ももにぶつかって、痛々しい赤い痕をつける。
そんなコウタの姿を見て、クラスの友達は、またか、という顔をして眉をひそめ、ため息をつく。中には露骨に口に出す者もいる。
「あ~あ。またコウタのせいで終わっちゃったよ」
呆れ顔で肩をすくめたのはヒロシだ。背が高くてがっしりとした体つきのヒロシは、少年サッカークラブに入っていて、運動神経バツグンだ。不真面目でいつも授業中寝ているし、大縄跳びの朝練もめんどくさい、と言って一回も来なかったけど、一度だって大縄跳びに引っかかったりはしなかった。
「やめなよ、ヒロシ。コウタ君だって一生懸命やってるんだから」
そう言った優等生のヨウコも、困ったような顔でコウタを見ている。学級委員のヨウコは、大縄跳びの朝練や、放課後の練習を企画した当人でもあって、なんとか三年四組が運動会で優勝できるように頭を悩ませている。そんなヨウコにとって、コウタが最大の不安要素になっている、ということはコウタにもわかっていた。誰にでも優しくて、弱いものをかばってくれるヨウコだから、もちろんそんなことは口に出しては言わないけれど。
そういうヨウコの気持ちがわかっているから、彼女にかばわれるたびにコウタはいたたまれない気持ちになる。自分がひどく悪いことをしているような、そんな気がしてしまう。
「……ごめんなさい」
みんなの冷たい視線に耐えかねたように、うつむいたままのコウタが消え入りそうな声で呟く。唇を噛んで、体操着の裾をつかんだ手のひらをぎゅっと握りしめる。
必死で泣くのをこらえているコウタを見て、クラスメイトたちがざわついた。「また泣くよ」「何でこんなんで泣くんだよ、情けねーな」「でも泣かしたらやばいよ」そんな声が、ところどころから聞こえてくる。
「今日の練習はこれで終わりにしよう」
あわてたようにヨウコが言った。
「明日本番だから、みんな頑張ろうね。コウタ君も」
その場を取り繕うようにヨウコが言うと、みんなが口々に「そうだね」「じゃ、明日」などと言いながら大縄を片付けて次々に教室に戻っていく。
「まぁ、うちのクラスは優勝は無理だろうな」
ヒロシがそう言って、コウタの方をちらりと見る。コウタは必死でうつむいて、気がつかなかったふりをした。ヒロシはあきれたようにふんっと鼻を鳴らすと、教室に向かって歩いていった。
「コウタ君、気にしなくていいよ。でも、明日頑張ってね」
最後に残ったヨウコが、うつむいたままのコウタに声をかけて、先に教室に戻ったクラスメイトたちを追いかけて小走りで去っていくと、グラウンドに残ったのはコウタだけになった。
あたりに誰もいなくなるとコウタは、憎らしいほど真っ青な空を睨みつけて、声を殺して泣いた。