僕が生きていく世界

人と少しだけ違うかもしれない考え方や視点、ぐるぐると考えるのが好きです。 あくまで、僕個人の考え方です。 みんながみんな、違う考えを持っていていい。 いろんなコメントも、お待ちしてますよ。

「台地にて」by ふっとさん @shoes_sox (お題バトル0516参加作品)

【使用したお題】

日本語、隕石が墜ちる、峠道、愛、空、雨

 

 

 単気筒エンジンのオートバイで、峠道をえっちらおっちらと登っていく。少しくたびれたこの内燃機関は、すとん、すとんと喘ぐような排気音を響かせる。もう二段、ギアを落とした方がいいかな、右のペダルを二つ踏み込むと、エンジン音は僕を非難するような、悲鳴にも似た唸りに変わった。あともうちょっとだ、我慢してくれ。
 2つのカーブを抜け、林が途切れるところがこの峠の頂上だ。道路が突然無くなり、その先の空へそのまま続いていく錯覚に陥る。頭の奥の方でファンファーレが鳴る。この瞬間のために、こんな時代遅れのオートバイに乗り続けているようなものだ。だが最高だ!
 峠を抜けた先はそのまま台地のようになっている。何もない、砂漠のような台地。人が住む気配もありはしない。ということはつまり。やりたい放題だってことだ。平らな道で負荷の減ったエンジンは、快調に回り、台地の中央へ進んでいく。
 この辺りでいいかな、と独り言。オートバイを一旦止めて、エンジンを思い切り吹かし、少し乱暴にクラッチを繋ぐ。左右に暴れるリアタイヤを無理やり押さえつけて何もない土地にタイヤ痕を残していく。大きく右に、リヤタイヤを滑らせながら小さく左に。そしてまた大きく右に。少し窪んだ、いびつな円を描く。
 台地の向こうに、彼女が見えた。彼女が近づいてくるたび、僕は視線を上げることになり、ついには直情を見上げるようになってしまう。
 
 この地に、ほんの小さな隕石が墜ちた日から、ここは歪になってしまった。
 
 たまたまこの地にいた彼女は巨大化し、言葉を、日本語すらも話すことがなくなった(でも、聴こえてはいるらしい)。言葉も少しずつ忘れているようだ。だから僕は、彼女の高い視線から見えるように、意味が伝わるように、大きなハート印を描く。これなら意味は言葉より永く伝わるだろう。僕は今でも彼女を大切に思う。それが愛というなら、たぶん愛だ。

 西から暗い雲がやってくる。もう暫くすると雨になるだろう。僕は彼女に対し、大きく手を振る。
 彼女はあまり寂しそうな顔もせず、ただ僕を見つめている。そして僕のオートバイが走り始めると同時に、背を向けて歩き出した。
 台地を抜け、下りの峠道に差し掛かるころ、大粒の雨が頬を打った。