「異界から来た鳥」by あすみ @aquoibon84 (お題バトル0516参加作品)
【使用したお題】
日本語、隕石が墜ちる、低気圧、峠道、愛、金平糖、ワイパー、空、飴、雨
あの日は日本に来て5年目になる日だった。わたしはトマトを中心に野菜を栽培する会社で働いている。日本語は難しかったけど、まわりのみんなが親切に教えてくれるから生活で困ることもほどんどなくなってきていた。来月には家族も日本に来てみんなで暮らせると楽しみにしていた頃だ。
その日の作業を終えて、現場から会社に車で向かってる夕方だった。春の嵐っていうやつなのか、空がどんどん曇ってきて風が強い。雨まで降ってきた。助手席にいる先輩のツトムさんは低気圧で頭が痛いとぐったりしている。峠に向かって登っている道は細く、両側が森でカーブの連続だ。運転を代わってもらうわけにもいかないし、安全運転を心がけなくては。
ハンドルさばきに集中していると、前方から何か巨大なもの迫ってきた。
「うわーーーー!!!!」
叫びながら急ブレーキをかけた。
だめだぶつかる!!つぶされる!と思ったけれども、そいつは木をなぎ倒しながら旋回して行ってしまった。
飛び起きたツトムさんはしばらく固まっていた。
「い、隕石じゃなかったか。何だったんだ、今の。」
「死ぬかとおもました。はあ、何だったんでしょう」
などと行っていると、今度はカラフルな雹が降ってきた。車に雹のあたる音も激しく、今度こそ一巻の終わりかと思う。生身で車から出たらそれこそ死んでしまいそうなので、車から出ることもできない。あきらめて待機していると、雹の降り方も落ち着いてきた。ワイパーのくぼみにたまった雹をよく見てみると、つんつんした形で星みたいだ。よく見るとかわいい。
「コンペイトウ」
「え、なんですか?」
「金平糖っていうんだよ。こういうお菓子。砂糖でできた飴みたいなやつ。かわいいでしょ」
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あれから3年。あのときは作っていた作物もビニールハウスもずたずたになってしまって、大赤字だった。政府からの補償がなかったら、生活できていなかったかもしれない。でもあのあと、土壌が劇的に改善されて作物がよく育つようになった。
結局あの隕石は地球外から来た鳥だったらしい。あの金平糖はその鳥の糞だというのだから驚きだ。鶏糞肥料の一種だったってわけか。異界から来た鳥の愛の産物だって言っている人もいるが……。
今日は私の誕生日なのだが、さて娘にもらったこの金平糖、どうしようか。
食べ、られるかな?食べられる、よね?